ドメーヌタカヒコ 収穫ボランティア体験記【タカヒコさんのお話篇<中編>】

Wine Trip

ドメーヌタカヒコの収穫ボランティアに参加した際にタカヒコさんから伺ったお話を載せていきます。

前編はこちら

北海道や日本のワイナリーにご興味がある方は、ぜひ以下の書籍も読んでみてください!


ドメーヌタカヒコの畑について

今、一般の方の見学は受け入れていない。
断るだけでは申し訳ないので、畑の上方に見晴台を作り、石柱(未完成)と看板を作った。

ナナツモリは農地の面積は6.6ha。東京ドームが4.8haくらい。
作付面積は約4.5〜4.6ha。

今年はあまり良い状態ではない。収量が低い。
空知は糖度で苦戦しているようだが、余市は収量が低い分糖度はそこまで問題なく、現在21度くらい。ポテンシャルのアルコール度数としては12.0%くらい。色が例年より悪い。夜温と日中の温度差があまりない。夜温が20度以下に下がることが、糖度や着色には大切だと考えている。20度以下になる日が少なく、25度前後の日が多かった。

今年はさらに、秋が遅く、温かかった。ヴェレゾンしてからも温かく、雨も多かった。

雨が降っても、気温が下がっているので、樹は水を吸収しない。そのため玉割れはそこまで多くないが、前半期には雨が多かったので、そのぶんは粒が膨らんでしまっている。

一方でドメーヌタカヒコにとって嬉しいのは、収量が若干上がったこと。粒が一回り大きいので収量は増えることになる。着色は悪いのでメリットとは一概には言えないが…


北海道の気候は、実は世界的には珍しい

余市でワイン用ブドウ、ピノ・ノワールを造り始めた理由は、北海道が寒いから。ワイン用ブドウとしてはブルゴーニュ、アルザス、シャンパーニュ、ドイツなど涼しい気候を目指している。

ブルゴーニュより涼しい場所というと、ニューワールドならオーストラリアのタスマニアくらい。ニュージーランドやアメリカにも、なかなかそこまで涼しい場所はない。
また、シャンパーニュほどに涼しい場所は世界にはほとんど存在しない。ヨーロッパは冬が温かくて夏が涼しい。

余市、北海道の魅力は、シャンパーニュくらいの寒さがある。それなのにワイン用ブドウができる。これは雪が降るからできることだ。ただの雪ではなくて、パウダースノー。これだけの雪が安定して降るエリアは世界的にも珍しい。雪があることによって冬が越せる。

ニューワールドでも標高が高いところであれば寒いところでブドウを植えることはできるものの、雪がなければ凍害になってしまうので冬を越すことができない。カナダもブルゴーニュより涼しいところはあるが、藁、ビニール、土を被せている。それくらいしないとブルゴーニュほど涼しい場所で造ることはできない。

雪の降らない十勝でかつてそのようにしていたが、採算が合わないのでやめてしまった。今は山葡萄になってしまった。

雪の中はマイナス温度にならないので、安定して冬を越せる。このような場所は世界にはなかなかない。


本州のヴィンヤードでは、多くの場合、ブドウに笠かけしてある。
一方で北海道はどうか。例えば、すぐ近くのキャメルファームでは10haもの広さがあるが、笠かけや雨よけはひとつもない。

寒いエリアだからこそ、雨と対峙ができる。

ブルゴーニュは雨が降らないようでいて、実はけっこう降っている。

雨が降る量を年間で見るのではなく、芽が出てから収穫までで見る。ピノ・ノワールであれば、ブルゴーニュでは450mm。チリは70mm。カリフォルニア、オーストラリアでは200mm前後。余市町は550mm。ブルゴーニュと比べて、多いと言えば多いが、大差ではないと考えている。

世界の中で、雨が450mm以上降るところでブドウを作っているのは基本的には寒い地域で、温かいエリアは日本くらい。長野の造り手たちも、どんどん標高の高いところに畑を移そうとしている。

長野では後輩の桒原(くわはら)くんがテールドシエルというワイナリーを運営しているが、彼の畑は標高900m程度。長野では、まだ1,000mは超えていない。1,000mを超えるとブルゴーニュがあり、さらにいくとアルザス、シャンパーニュがある。しかし行けない。なぜなら凍害があるから。

その点、北海道は安定して冬を越せる、寒さと対峙できるメリットがある。

ちなみに、長野でも、芽が出てから収穫までの降雨量はピノ・ノワールでは550mmくらいだ。
世界でそういうエリアはほとんどない。


ブルゴーニュのワインは世界的に値段が上がっている。
逆にボルドーやカリフォルニアはどうか。ボルドーくらい温かい場所は世界にいくらでもある。つまり簡単に真似されてしまうこととなり、彼らは苦戦している。

ボルドーでは1級シャトーのようなもの以外、減反政策としてブドウの樹を引っこ抜いてしまっている。
ワインが売れなくなってきているからだ。競争相手が多い環境に晒されている。
ボルドーのワインは、ニューワールドと比べて違いがわかりづらい。
比較的涼しいエリアはニューワールドとは一線を画す。そういう意味でも涼しいエリアは利点がある。


有機栽培について

さらに、雨が降ることで有機栽培と対峙できる。

例えば、砂漠のように草がない場所、砂や石しかないような場所で栽培しようと思うとどうなるか?それは、ハウスの土を持ってきたポット栽培と大差なくなってしまう。

有機栽培を、無農薬とか健康といった文脈で捉えている人からすればどうでもいい話かもしれないが、本来、私たち農家は良い土を作っておいしい野菜や果物を作るということを目的に有機栽培をしている。除草剤や農薬が邪魔で、草が生えてナンボ。草が生えないような場所で農業をしても意味がない。石しかないような場所で野菜や果物を作っても、おいしいものはできない。

トマトのように色が濃いものは砂漠地帯でもできる。濃さを追求するなら砂漠地帯でも問題ない。
ただ、そこに私たち日本人が求めるようなおいしさがあるかどうかと言われると…ちょっと違う気がする。

私たちは日本という国なので、雨が降る、草が生える、土が豊かになる。そこに何が生まれるか、という自分のひとつの答えが‘うまみ’。うまみの中でも出汁感。日本の自然豊かなものを上手に使えばそうなる。


ブルゴーニュのワインは世界では真似できない。同じものは僕たちも作れない。
彼らの考え方も、土壌があり、歴史があり、真似出来ない。
でも、日本の風土も真似できない。
僕たちの(日本の)野菜はおいしいと思う。
ヨーロッパの野菜は硬いと思う。その理由は、やっぱり水。水が硬いのだ。
硬水の難点のひとつは、出汁がでない。昆布だしやかつおだしは硬い水では出ない。ヨーロッパで出汁文化がでないのは水がないから、そういう思想もない。

日本は水が柔らかく、火山土壌がある。これらを大切に思っている。
だったら良い土を作って、いい野菜や果物を作ればいい。恵まれた場所だと思う。
世界の人たちが真似できるか?たぶん真似できない世界を私たちは持っている。

日本でナチュラルワインが流行っているというが、ナチュラルワインだからおいしいどうこうではなく、私たち日本人はうまみを知っている。世界のワインの中でも有機栽培したワインは旨味を持っている。だから食にも合う。

亜硫酸も同様で、ワインを硬くしてしまう。僕たちのワインは比較的柔らかい。和食に合う。お刺し身に合う。
今、余市で取れる、たらこや数の子、いくら…硬いワインは生臭くなって合わない。でも日本の柔らかいワインは合う。亜硫酸をたくさん入れたら合わない。
アンフォラ、陶器に入れるとワインは柔らかくなる。日本の食と合うようになる。私たちはそういう味わいを好んでいる。

水も、若い頃はヴォルビックなどを飲んでいても、年をとると天然水を飲んでしまう。
そういう味わいに誇りを持っている国だと思うので、うちのワインのスタイルもそういう考え方になっている。

日本は有機栽培でやった方が絶対にプラス。世界と勝負ができる可能性が高い。
だからうちは有機栽培をしている。

そう考えるきっかけになったのは棚ブドウだ。
前にいた会社は、棚ブドウを手掛けていた。

北海道の魅力のひとつは、日本一多くヴィニフェラのブドウを作っているところ。
本州に行くとほとんどが棚ブドウで、優秀な農家さんがいる。
そういう方たちにワイン用ブドウを作ってほしいと頼むと馬鹿にされる。そんなものポット栽培でいいじゃないかと説教を食らう。

自分自身、ワイン用ブドウと巨峰は違うと思っていた。巨峰はうまみがある、と農家さんからよくされていた。
ただ、今はちょっと違う考えだ。


僕はジュラのプールサールというブドウが好き。プールサールは粒があまり小さくない。マスカット・ベーリーAくらい大きい房、粒。そういう品種からおいしいワインはできないのか?僕はそういうワインに感動を覚えた。

プールサールの魅力のひとつはうまみ。土瓶蒸しのようなうまみがある。そういうものに感動を覚える。
今年はたま膨れして残念だね、というのが世界的な見方かもしれないが、日本のうまみを表現するには今年は良いのではないか。この方がおいしい、日本食に合うワインができる可能性がある。

世界中に濃いもの、力強いものはいくらでもあるので、そういうものが飲みたければそちらを飲めばいい。自分たちはそういうグローバルな味わいを求めていない。競争していない。

一般的には、コンクールに目がくらんでしまうだろう。世界の流行のスタイルを、甲州やマスカット・ベーリーAで作ろうとしてしまう。

僕たちはどういう味わいのスタイルが好きなのか、ジュラには、ロワールには、シャンパーニュにはなぜそういうワインがあるのか。
みんなが同じ味わいを目指したら、きっとつまらないものになる。

フランスはおそらく各地域の味わいを文化として守っているからこそ素晴らしい。僕たちも同様にそういうことを考える必要があると思っている。

今年は今年の味で、これがおいしいかもしれない。農家として苦戦はしているものの、答えはない気がしている。今年は今年の作り方でやる。

2021年は色が濃く、アルコール度数が13度以上、タンニンがしっかりしている。でもお刺し身とは合わない。土瓶蒸しと合わない。

日本は日本の食と合うものに誇りを持っていった方が、意外と生き残れるのではないかと考えている。

後編に続きます。

その他の記事はこちらから

コメント

タイトルとURLをコピーしました